Now and Then 〜time cycle〜


Written by みあけ ひろみ様



「いくよ〜?」
「うん!」

声の合図とともに、自転車が坂道をすべり出す。
私は大きな彼女の背につかまりながら、吹きつける風にいどみかかってゆく。


出会ったのは、ほんの数分前。
約束があったわけでもないのに、お互い何もない日に、ばったり。
予定が手ぶら同士の私達は、自転車で2人散歩をしよう、ということになった。

下り坂が急になればなるほど、風はどんどん強くなる。
風が強くなればなるほど、彼女との距離が近くなる。

それを素直に嬉しいと思える、自分が嬉しい。


こみあげてくるいとしさに、思わず、つかまる腕に力をこめたら、
彼女が軽く身をよじったから、はたと気付いて、力を弱めた。

彼女は振り向いて、大丈夫だよ、とほほえんでくれる。
私も苦笑しながら、めいっぱい、ほほえみかえす。


坂は終わって、平坦な道にさしかかっても、
坂に勢いづけられた自転車は、そのままで走っていく。





……ふと、流れてゆく景色が、とまってみえた。


街路樹並木に、おしゃれな商店街。
向かいの通りでは、子供たちが笑い声をあげている。


その、とまった景色といっしょに、時間も止まった。



「どうしたの?」

呼び戻されて、われにかえる。


ほんの一瞬だけど、みえた気がする。
私達は、ずっと昔に、こうしていた、こと。



これからもこうして、あなたのそばにいられるか、それはわからない。
けれど、今、こうして出会えたことは、決して偶然なんかじゃなくて。

ずっと昔から、約束もなく出会えるのは、
きっと2人に、「出会えるなにか」があるから。

だから、私達は、なにがあっても、きっとのりこえていける。



車輪が大地をふみしめる重みが、つたわってくる。

過去は、ふりかえるものではなく、ふみしめてゆくもの。
未来は、くるのを待つものではなく、みずから切りひらいてゆくもの。

自転車は坂をこえて、もう、ペダルを足でこいで進まなければならなくなった。



「……なんでもない。ただ、とてもしあわせなだけ」



背中を抱きしめる腕に、もういちど、力をこめる。

振り返った彼女の満面の笑顔が、
とまどいかけていた私の思いをふきとばして。

景色が流れて、時間はふたたび、動きはじめていた。


fin.

Special thanks for...
HEART


Comment by 嵩乃 朔 
★HEARTのみあけさんから小説を頂いちゃいました。
★「Cycling」という私のイラストからちょびっとインスピレーションをお受けになって書かれたそうで…。やや。こんなお目汚しイラストなのに。ありがとうございますm(^^)m
★乱雑な私のイラストとは打って変わってさわやかなまこちゃんと亜美ちゃんの二人が描かれていて青春〜って感じで、とっても素敵です〜。本当にありがとうございました。てへへ。頂いちゃった〜。