TRRRRR……

「はい」

 まさか——
 あっさり1コールで出るとは思ってもみなかったので、少し焦ってしまう。電話したはいいが、掛ける言葉も何も考えておらず、あー、えっと、なんて言い淀んでしまう。
『どないしたん、なつき?』
「いや、あの、その——。い、今何してたんだ、静留?」
 どもる声に、ふふ、と笑う声が聞こえたのは気の所為ではあるまい。なつきの頬が染まる。
『何て、ゆく年くる年見てたんよ』
「そ、そうか。えっと……」
『…………』
 何も言わず、自分の次の言葉を、彼女が待っている。
 それが、静留らしいとも思うし、何か言って欲しい気もするし、少し——嬉しい気もする。
「静留」
『はい』
「……あけまして、おめでとう」
『あけましておめでとうございます』
「今年も、宜しく頼む、な」
『ええ。うちの方こそ宜しう頼みます』
 今度はなつきが笑った。当たり前の会話が、とても嬉しかったから。
「……ああ。勿論だ」

 除夜の鐘の音を聞いて、直ぐに電話した。なんとなく、静留の声が聞きたくなったから。
 ——否、自分の声を聞かせたかったから、……かも知れない。
 あいつなら、そう思ってくれる。自分を一番に。一番で、おめでとうを伝えて欲しいと。
 少しばかり自意識過剰かれもしれないが、でもあいつなら、きっとそう思ってくれる。

『なつき、おおきに』
「…………ああ」

 携帯電話の向こうで、微笑んでる姿が目に浮かんだ。


fin.



あとがき

★今頃年越し話ですよ。……ごめんなさい。こんな時期にそんな話でごめんなさい。
★短くてごめんなさい。
★実はこのお話続きます。続きはサイトでUPかもしかしたら同人誌で。ちょっと全部出来上がってからどちらの方がいいか、考えてみます。

★あ〜また男らしいなつきさんになってしまった。静留の手のひらの上でうろちょろしてる、ヘタレななつきさんが大好きなのに…。


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Saku Takano ::: Since September 2003