ROOFTOPのランチタイム
実写版セーラームーン Act.8.5
これは実写版セーラームーンのAct.8と9の間のお話です。9に繋がる話なので、9を見てから読んで下さった方がいいです。
飽くまでも実写版のキャラとして書いてますのでアニメや原作と混同しないで下さい。
ってか出来れば実写二人の顔を想像して読んで下さい(笑)
ラストのオチは妄想ですから! くれぐれも本気にしないで下さい(笑)


「あ! 亜美ちゃん、やっぱりここにいた――!」

 高く澄み渡った空に頬をなぜる風が心地よくて、柔らかな風に誘(いざな)われて頬にかかった髪を掻き上げる事すら忘れて夢中で読みふけっていた本の行間で視線を留めると、亜美は声のした方に眼鏡越しの視線を投げかけた。
「まこちゃん……」
「視聴覚室か屋上かどっちかだと思ったんだけど、やっぱりこっちだったね」
 高く結い上げた長い髪を風になびかせ、まことはランチボックスの入った手提げを掲げてみせた。
「あたしもお昼、一緒していいかな?」
「あ……うん」
 浅く頷いて本を閉じ、慌てて眼鏡を外すと、少し脇に寄って客人に席を空ける。
「サンキュ。……やっぱ屋上はいいねえ。景色はいいし、風も気持ちいいしさ。ごはん食べるのに持ってこいだね。あ、それとも本読むの邪魔しちゃった?」
「ううん、いいの。それよりまこちゃん、私の事探してた……?」
「あ――……まあ、多分亜美ちゃん屋上にいるだろうから、一緒にごはん食べようかな〜とか思ってさ」
「…………」
「あ、やっぱり迷惑だった?」
 黙り込んでしまった亜美の反応に不安を感じて、まことは口の端に微かな苦笑いを浮かべて亜美の表情を見遣る。
 すると亜美は慌てて顔の前で手を振り上目使いにまことを見上げ、ふと感じた疑問を口にする。
「あ、違うの。ただ何で私だけ“亜美ちゃん”ってちゃん付けなのかなって……」
「へ?」
「あの……うさぎちゃんやレイちゃんの事は呼び捨てだから……」
「あ〜〜、まあ、そうだけど……。何、“亜美ちゃん”っていうのダメ?」
「そ、そうじゃないけど……」
「…………」
 まことは取り敢えず、一緒に昼食を採る了承は得たのだからとランチボックスの蓋を開け、手を動かしながら亜美の言葉を反芻してみる。
 ――私だけ“亜美ちゃん”って……うさぎちゃんやレイちゃんの事は呼び捨てだから……
 ……この子はそういうのも気になっちゃうのか……。
 そっか、とまことはうつむいた亜美の旋毛のあたりに視線を下ろしてしばし考え込む。
「……まあ。何ていうか……。……特に意味はないんだけど……」
 言いながら眉間に皺を寄せ返答に困ってう〜んと唸るが、結局は思った事をそのまま口にする。
「呼びやすいように呼んだらそうなったというか……。ま、亜美ちゃんが“亜美”の方がいいっていうんならそう呼ぶけど……? あたしの事も“まこと”で構わないし」
 ――どう? という表情で言われて、亜美は口の中で小さく「まこと」と呼んでみる。
 するとどうにも気恥ずかしいというか照れくさいというか、ひとを呼び捨てで呼んだ事がない為、ぎこちない感じがしてしまう。そういえばうさぎちゃんを呼び捨てにした時もそうだったわ……。
「そ、そうね。なんとなく……分かったわ。ごめんね。変な事聞いて」
 気恥ずかしそうに顔を赤らめて、はにかんで謝る亜美。そんな彼女を見ていると、そういう所が“亜美ちゃん”って感じなんだよな、と改めて思う。
「……ところで亜美ちゃん、お昼それだけ? おにぎりだけじゃお腹空かない?」
 突然話を別な方向へ振られ戸惑う亜美。
「え……。いつもの事だし、空かないけど……。あ、まこちゃんは今日のお弁当も、とっても可愛いわね」
 ふふっと微笑んで、亜美は彼女の赤いランチボックスを覗き込んで、微笑みながらまことを見上げる。
 可愛いなどと言われて言われ慣れぬその言葉の躱し方に困り、まことは苦笑いを浮かべてタコさんウインナーを口に放り込んだ。
「や、あたしのガラじゃないっての分かってんだけどね。なーんか作ってると無意識に彩りとかバランスとか気にしちゃって……あ、食べる?」
 まことがランチボックスを差し出すと、亜美は反射的に首を振ってしまう。
「ううん、いいわ」
「そう? 遠慮しないでいいんだけど……」
 余り無理に勧めるのも亜美の気を悪くするかと思い、すごすごとランチボックスを膝の上に戻しながらまことは、――でも……、毎度毎度おにぎりだけじゃ身体に良くないし、ただでさえ亜美ちゃんって細いのに、もっと栄養採った方が絶対いいよなあ……などと半ば無意識に思考を巡らせた。
 それなら――最初から亜美ちゃんの分も作って来ちゃえば、否が応でも食べるかな。あ、いや、それじゃお節介過ぎるかなぁ……
「まこちゃん?」
「え? ああ、ゴメン。何?」
「あの、後でクラウンで皆に言おうと思ってる事なんだけど。――この間ルナと話していてね、どうも敵が徐々に力を強めてきているらしくって、私たちも戦闘能力を上げていかないと……って事になったんだけど」
「ふんふん。それで?」
「それで……、折角私たちチームで闘っているんだし、様々なコンビネーションプレイで闘えば効率も上がるかと思って、色んなパターンをコンピューターで計算してみたの。これを見てみて。たとえば私マーキュリーとジュピターの場合なんだけど……」
 まだ殆ど減っていないコンビニ製おにぎりを膝の上に置き、手の平大の折り畳み式の電卓のような携帯情報端末を取り出す。
「何ソレ?」
「ああ、PDA……ともまた違うだけど……。PDAっていうのはパーソナル・デジタル・アシスタンスといって小さなパソコンみたいな物なんだけど、ほら、よくサラリーマンが使ってたりしてるでしょ? でもこれは市販のものではなくて実はルナから貰ったものなの。見た目はこんなに小さいけれどスーパーコンピュータ並の情報処理速度があって、これがあれば様々な計算や戦闘のシュミレーションが出来るのよ。ちなみにOSは自分で組んでみたんだけど、まだシステムとしては不十分でまだまだ改良の余地があるんだけど、今はこれをいじるのが楽しくて楽しくて……」
「ふ、ふ――ん…………?」
「あ、ごめんなさい。マーキュリーとジュピターのシュミレーションだったわよね」
 頬を赤く染め、ちょっと興奮し過ぎてしまった自分を戒めて、話の軌道修正をする。
「例えばこういった動きを取り入れると、身体能力の不足が補えると思うの。ほら、自分で言うのも情けないんだけど、私ってまこちゃん程強くないし……」
 いや、あたしくらい力のある女の子ってそうそういないと思うけどね、と心の中でツッコミを入れつつ、まことは先を促す。
「それで?」
 液晶モニターの中を覗き込むと、カクカクとしたポリゴン状の人型が緩慢な動きで動き回って、一定の行動を繰り返していた。
「こっちの緑色のがジュピターで、青いのがマーキュリー。こういう風に二人が連携して動いて、ジュピターがこうやってマーキュリーを放り投げるようにすると……」
「ああ〜、一気に敵の背後に回り込めるワケか」
「そうなの。でもそうする為にはちゃんと訓練しないと……」
「そうだね。じゃ、放課後にでも二人で特訓するか?」
「――え?」
 まだ模索している段階のシュミレーションが急速な展開で“二人で特訓”に至り、驚いて亜美はまことの顔を見上げた。
「あ、でもうさぎちゃんやレイちゃんは……?」
「ん〜、あの二人はいいんじゃないの? 取り敢えず亜美ちゃんとあたしでコレをマスターして、二人を驚かしてやろうよ!」
 どうやらまことは本当に二人に教えるつもりはなく、二人きりでこっそり特訓をするつもりらしい。確かに大勢集まってそれぞれ違う練習をやるよりは、いっその事二人でみっちりと練習をした方がロスする時間も少なく効率はいい筈だが、まことは効率云々というよりも単純にうさぎとレイを驚かしてやりたいだけのようだ。
「あ〜特訓か〜、久々に燃えてきたぞ――!」
 ガッツポーズをして気合いを入れるまこと。元々体育会系な性質なだけに心底「特訓」が楽しみであるようだ。
「ね、亜美ちゃん!」
 亜美は自分の組んだシュミレーションにまことがやる気をみせてくれたのが嬉しくて、まことのガッツポーズを真似て満面の笑みでそれに応えた。
「うん。頑張って二人を驚かせましょ!」
「よ〜しそうなったら、まず体力付けないとね! ほら、亜美ちゃんコレ食べていいよ。むしろ食べないと駄目だよ、ほら」
「え……。じゃ、じゃあ……」
「はい、あ〜ん」
 まことが、人参といんげんの牛肉巻きをフォークに差して亜美に差し出すと、今度こそ亜美は差し出された料理に素直にパクついた。
「…………美味しい」
「――よし!
 じゃあ、コレも!! あ〜〜ん」

fin.








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あとがき
★う〜わ〜。ついに実写で小説書いちゃったよ。ハマり過ぎだよ、自分…。
★いや実写は実写でいいね! 皆可愛いよ。

★んで、Act.8と9の間の話って事で。実写本編では屋上で二人でお弁当食べてるシーンは(まだ)出て来てませんが(Act.9現在)でも8の時のまこちゃんと亜美ちゃんの会話のぎこちなさと、9でのちょっと進展してそうな感じを比べると、絶対何かあったと見るべきで! そんな訳で妄想風呂敷広げ過ぎちゃった訳ですが(笑)
★さらに9で示し合わせたようにジュピターとマーキュリーがコンビネーションプレイで戦闘してるのを見て、こりゃ絶対事前に示し合わせてやがる! ちゅうことで、私の妄想がめくるめくりまくって(は?)こんな事に。
★そしてラスト。自分でも「あ〜ん」はないだろ、とは思うけど(^^;)でも妄想だから!(爆)




Waterfall//Saku Takano
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