カタハネ

 激しくなった大粒の雨が全てを覆い隠していた。
 街は暗く煙り、彼方にあるはずの夕陽は厚いヴェールに遮られ、街の喧噪も灰色の壁に消え失せる。彼女の声の他には無数の雨粒が地面を叩く音しか聞こえない。

「……アンジェリナ……ありがとう」

 それはすべてを受け入れ、安堵した穏やかな声だった。
 けれどその呼びかけに答える事が出来ない。遊歩道近くの橋の下、荒い呼吸をくり返し、濡れて冷えきった地面にへたり込む。素肌に直接触れるその冷たさが、羞恥心もモラルさえ抜け落ちた自分には心地よく感じられ、起き上がる事さえ出来なくなる。そっと支えてくれる彼女のその素肌から伝わるぬくもりが優しくて、荒い呼吸のままそっと目を閉じた。
 やがて呼吸が落ち着いた頃を見計らって、彼女が――ベルが腕を延ばし、頬に触れた。その細い指先に誘われるように顔を上げる。
 淡い金髪を揺らし、彼女がほほ笑む。けれどそれはとても弱々しい笑みだった。雨に濡れ、無数の滴がその柔らかな髪から、裸の肩から小さな胸から、雪のように白い肌を滴り落ちる。
 直ぐに彼女の眉が下がる。
「……あの、……ごめんなさい、ワタシ――」
「……いいのよ、ベル。あたしもあなたを感じたかった……から」
 ――感じたい。
 そんな言葉を本人を前に告げるのはとても恥ずかしかったが、不思議とはっきりと言い切ることが出来た。そう、あたしは――
「……あなたが好きだから」
「アンジェリナ、さん……」
 心の奥では分かっていたはずなのに、ずっと一歩を踏み出す事が出来なかった。バーミリオンで渡し損ねた小さな人形石(ドロップ)。それを渡す勇気すら持てなくて、この気持ちを押し隠したままずっと過ごしてきてしまった。
 けれどその人形石も、昨日ようやく渡すことが出来た。ありったけの想いを込めて。――もしかしたらフラれるかもしれない、……なんて怖れを胸のどこかに感じながらも、それでもこの想いを「なかった事に」なんて絶対に出来なかったから。
 でも……それから先に進めなくて。
 宿泊先のホテルに戻ってからも、互いに遠慮する気持ちがあって、照れ笑いで誤魔化してしまった。
 マリオンお姉さまとの事があってから、恋する事に臆病になっていたのかも知れない。だから旅の間ずっとなんでもない振りをし続けた。彼女は人形で、演劇のパートナーでそれ以上でも以下でもない、そう思って。
 でも違った。
 そんな言い訳じゃ隠しきれないくらいに気持ちが大きくなっていた。
 雨の中、ずぶ濡れの彼女を見つけた瞬間、痛いくらいに気持ちが締めつけられた。彼女を失うのが怖かった。怖くて怖くて必死に彼女を追いかけた。彼女の為ならなんでも出来る、彼女をもう二度と失いたくないと。
 ――そんな風に感じるのは、クリスティナ姫の役を演じていた所為?
 彼女は名もなき天使との想いを胸に、短いその生涯を閉じてしまった。そんな彼女の想いがあたしに「二度と失いたくない」なんて思わせたのだろうか?
 でも。
 きっと、そうであって、そうではない。

 あたしは、ただベルが好きだから。
 ただ……それだけ。

 だから、彼女がドレスを脱いであたしを求めてきてくれた時、少しも迷うことなく彼女を受け入れる事が出来た。どんな事であっても、彼女のすべてを受け入れてあげたかった。彼女が不安で泣いているなら、涙を止めてあげたかった。
 ――彼女の、ベルのすべてを受け入れたかったから。
「アンジェリナさん……」
 あたしの言葉に彼女が頬を赤らめる。あたしはそれに微笑んで、彼女の頬を両手で包み込んだ。
「……違うでしょ」
「え?」
 案の定、戸惑う彼女を引き寄せ、頬にはりついた髪をそっとよけてあげる。
「アンジェリナさん、じゃなくて、アンジェリナ、でしょ? あなた、さっきそう呼んでくれたじゃない」
 そう言うと、頬を染める彼女。さっきはあんな大胆な事をしたというのに――。
「そう、ですね。……アンジェリナ」
 言いながらうつむきそうになるのを、両手で止める。そしてゆっくりと唇を近付けた。少しずつ近くなっていく彼女が、頬を染めたままそっと目を閉じた。
 再び触れ合う唇。
 それはとてもやわらかくて、そしてあたたかい。
 そっと顔を離すと、お互い照れくさくてはにかんで笑う。
「……帰りましょうか。いつまでもこんな格好のままでいたら、風邪ひいちゃうし」
 そう言うと、裸の両腕を抱き締めて、やっぱり彼女は頬を赤らめたのだった。

 ホテルに着くまでの道のりはそんなに遠くないはずなのに、なんだかもどかしくてとても長く感じた。
 入口で申し訳程度にワンピースの裾を絞り、びしょ濡れのまま、「雨に降られちゃって」なんて言いながらフロントでキーを受け取る。その時にタオルを多めにもらえるようにお願いした。
 部屋に入って、まず彼女をバスタオルで拭く。ひとりで出来るからと抵抗する彼女を無視して頭を拭き、そしてワンピースを脱がせる。孤児院(ウチ)で小さい子の面倒を見るのは慣れているから、なんだか放っておけなかったのだ。そして身体も拭いてあげようとした時、ノックの音がした。フロントで頼んだタオルだ。
 あたしはもうひとつのバスタオルで髪を拭きつつ、ドアを開け、タオルを受け取った。気持ちは逸りながらも、不自然にならないようにひと言ふた言世間話に付き合いつつ、ドアを閉じた。そして鍵をかけ、早足で脱衣所に戻る。すると彼女が困ったように立ち尽くしているから、首をひねるよりも前にお小言が飛び出してしまう。
「もう、ほらさっさとシャワー浴びて! 本当に風邪ひいちゃうわよ?」
 言いながら、シャワーのコックをひねる。温度を調節しつつ振り向くと、やはり彼女が困った顔をして立ち尽くしているものだから、思わず顔をしかめた。
「どうしたの?」
「あの、でも、雨に濡れたのもワタシのせいですし、……あの、アンジェリナさんが先にシャワー使って下さい」
 もじもじと言う彼女。誰にでも気を使う優しい彼女の事、バスタオルで身体を隠すようにして、そんなことを言うものだから、呆れると同時にいとおしさがこみ上げる。でも今は一刻を争う。
「何言ってるの。そんなこと言ってたらあなたが風邪ひいちゃうでしょ。だから……」
「で、でも……」
「でもじゃないの。だーかーらー」
 人さし指を彼女の口元に当て、唇をふさぐ。
「一緒に入ればいいでしょ」
 するときょとんとする彼女。
 やがてみるみる頬が染まっていく。
「え? ……ええ!?」
「ほら、あたしも直ぐに入るから、先に入って!」
 突然のことに驚いて戸惑う彼女を無視して、押し込むようにバスタブに追いやる。バスタオルを奪うと、然も恥ずかしそうに両腕で身体を隠すから、彼女らしいやら、先ほどの大胆さはどこへ行ったやら、くすりと笑ってしまう。けれど彼女はそんなこっちの心中など察するはずもなく、戸惑ったままもじもじと顔をそむける。
「あ、アンジェリナと一緒に……?」
「そうよ、文句ある?」
 ここまで来ても煮え切らない彼女に、ついつい憎まれ口をきいてしまう。でもそれは勿論――
「あ、ありません」
 彼女が嫌がるはずがないことを知った上でだ。
 それからあたしも皆から貰ったワイン色のワンピースを手早く脱ぐと、バスタブに入った。裸を見られることについてはそれほど抵抗はない。孤児院では小さい子たちの面倒を見ながらお風呂に入るし、そんなこと気にする余裕なんてないのだから仕方がない。それに見られる相手もベルなのだから、抵抗があるわけなかった。
「ほら、しっかり浴びて?」
「あ、あの……、はい……」
 さすがに観念したのか、大人しくシャワーを浴びるベル。白い肌を熱いお湯が滑り、徐々に肌がピンク色に染まっていく。シャワーヘッドを手に取って、ベルの身体に向けつつ、その背にぴったりと身体をくっつけて寄り添う。
「……ね。あたしにも、浴びさせて?」
「……はい」
 大人しく従うベル。
 少し大胆かと思ったけれど、雨に濡れて寒いのは本当だったから、シャワーのあたたかさがありがたかった。
「温度は、大丈夫?」
「はい」
 湯気に包まれながら、彼女がこくりとうなずく。やや小柄な彼女の後頭部がちょうど鼻先にあり、その髪に顔をうずめた。
「ベル……」
 空いた方の腕を前に回し、そっとベルのお腹あたりに触れる。
「……柔らかい」
 思ったままを口にすると、彼女がその手に自分の手を重ねた。
 そのまましばらくシャワーを浴びる。徐々に、シャワーとは別の熱が自分を温めていくのが分かった。それはきっと彼女も同じだろうと思う。抱いた手の上に重ねられた彼女の細い指先が遠慮がちに、それでいてしっかりと指の間に食い込んでくる。
「ベル……」
「アンジェリナ……」
 あらかた砂埃を洗い流したところでシャワーヘッドを壁にかけ、バスタブに栓をする。そしてボディソープを手に取り、彼女の柔らかな肌にその手を押し付けた。ぬめる手を肌に沿わせ、上下に動かす。
「やっ……」
 すると彼女が可愛らしい声を上げる。
「あたしが洗ってあげるわ」
 そう言うと、その手許を見つめたまま真っ赤になる彼女。
「え……でもっ!」
「いいから、大人しくしてて」
 手を動かしながら少し強めの声で言う。すると彼女の抵抗が弱まり、あたしの手の動きに身をまかせ大人しく壁にもたれかかる。
「っ……ん……」
「……気持ちいい?」
 ささやくように訪ねると、彼女の肩が跳ねる。
「……分かりっ……ませ……」
「……ほんとに?」
 泡立ち始めた手で小さな膨らみを揉み上げる。つるりと逃げていく感触に小さな突起がこすれて、彼女が可愛らしい悲鳴をあげる。
「これでも……分からない?」
 自分でもいじわるだと思うが、こんな可愛らしい反応を見せる彼女がたまらなく愛おしくて、ついそんな事を聞いてしまう。すると彼女が、そっと舌唇を噛みながら、小さくこくりと頷いた。
「…………気持ち、……いい……です」
 それは今にも消え入りそうな声だった。頬を染めた彼女は顔を背け、必死に刺激にたえている。その背に手を回してぬめった手で撫で上げると、その小さな身体が大きく震えた。
「ひゃっ……」
 その反応に満足しながら彼女を抱き締め、左手で胸を揉みしだきつつ、なめらかな背を撫で上げる。互いに密着した肌の肌理細やかな感触が言い様もないほどに気持ちがいい。そのままキスを交わし、深く求め合う。
 舌が絡み合い、唇からこぼれた雫が白い喉を伝い落ちる。熱気のこもる吐息を飲み込み、口腔内を吸い上げ、彼女の柔らかな舌を味わう。シャワーの音に紛れて水音が立つ。
「……あんっ……ん、……んんっ……!」
 深く繋がり合いながら、指先で彼女の肌を味わい、彼女の吐息の熱さにやがて恍惚となってくる。あたしは強く抱き締めながらふとももを彼女の脚の付け根に割り入れた。
「んっ……アンジェリナっ……!」
 突然の刺激にベルが身をよじる。それを逃がすまいと、更に強く脚を押し付けると――。
「ああっ! ……あっ、んんっ……!」
 互いの身長差は10センチ以上ある。背伸びをして懸命に逃れようとするが逃れられるはずもなく、敏感な部分を押し上げられ彼女がしなだれかかって来た。シャワーではない熱で火照った身体が密着し合う。
「んっ! んっ!」
 あたしの動かす脚のリズムに合わせ、彼女が嬌声を唇からこぼす。それはたまらなく刺激的な媚薬となり、あたしをとろかす。リズミカルに擦れあう胸と胸の刺激に、彼女の身体が少しずつ高ぶってくるのが分かった。
 脚の動きによって密着した上半身がぬるぬると擦れ合う。その刺激に耐えるためか、はたまた更なる刺激を求めてか、彼女が背に腕を回ししっかりと抱き締められる。
「はっ……はっ……、き、気持ち……いい、ですっ……! アンジェリナっ!」
 乱れた呼吸で刺激に恍惚となりながら彼女が言う。
「あ……いぃ……あうんっ……!」
 高ぶりに掠れた声で啼く彼女。
 あたしは右手を後ろへ伸ばし、出しっ放しのままのシャワーで指先の泡を洗い流す。一瞬離れかけた身体にベルが不安げな表情を見せたが、あたしはそれに微笑んで左手でもう一度彼女を抱き寄せた。
「ベル……あたしを感じてね」
 耳元でささやくようにそう告げ、ボディソープを洗い流した指先を彼女の大事なところに宛てがった。そこは彼女自身から溢れ出したものですでにぬめっており、少し力を加えるだけで簡単に奥へ奥へと入ってしまう。その瞬間、彼女を覆う襞ごしに小さな突起に触れたようで、彼女がかん高い声を上げた。
「ひゃあああぁあんっ!」
 指と脚の圧迫に彼女が震える。
 彼女の甘い声はあたしの身体も心もとろかせる。彼女だけじゃない。自分の大事なところもぐっしょりと濡れているのが分かった。
 あたしは指で彼女の中を掻き混ぜながら、それと同時にリズミカルに脚を上下させ彼女を刺激する。すると荒い呼吸と共に彼女が嬌声をあげる。
「やっ……! ダメ、ですっ……! そんなぁっ、……ああっ……!」
 ぴくぴくと彼女が震え出す。
「やぁっ……あっ、あっ、ああっ……!」
 呼吸が小刻みになり、背に回した腕の締め付けが強くなる。彼女が登り詰めていくのが分かった。
「あっ、ああぁんっ! あんっ! あんっ! あんっ!」
 そして――。

「やぁぁああんっ!」

 くったりと彼女から力が抜けた。
 脱力し、額をあたしの肩に押し付けるベル。あたしは、指を抜いてもすでに何の反応も出来ないでいる彼女の髪にそっと口づけた。
 そっと抱き起こすと、甘い吐息が首筋にかかり、それだけでとても満たされた気分になる。
 あたしはしばらくそのままで彼女を支え、甘い余韻を味わった。彼女の乱れた呼吸を包み込むように、浴室にはシャワーの音だけが響いている。
 やがてゆるゆると彼女の腕が持ち上げられ、もう一度抱き締められた。その指先が背骨の窪みをゆっくりと辿る。
「ワタシばっかり……ずるい、……です……」
 小さくつぶやかれた声。
「あなたが、可愛いからよ」
 そう言うとますます彼女が顔を赤らめて、小さい子供のように額を押しつけてくる。そんな仕種が可愛らしいのだとも知らないで――。
 あたしは彼女の小さな身体をぎゅっと抱き締めながら、彼女に見えないようにこっそりと微笑った。
 やがて彼女がゆるゆると顔を上げた。そして背伸びをする。
 あたしはキスだと分かって応じようと首を傾げたが、何かが少し違うと思った。
「……ベル?」
 彼女は自分のお腹に手を当てたかと思うと、ボディソープでぬめった手をあたしに押し当てて来たのだ。
「……今度は、もっと……、ワタシにアンジェリナを感じさせて下さい」
 とても小さな声でそう言って、手を滑らせる。
「ええ!?」
 彼女はあたしをやんわりと壁に押し付けると、背伸びしたままキスをする。その間にも器用に手が動いて、あたしはたまらず声を上げてしまった。
「ん……んん!」
 やわからな唇を押し当てながら、舌があたしを求める。それに応じるように舌を動かし、彼女を感じる。
「ん……アンジェリナ……ぅうんっ……」
「…ベルっ……んんっ」
 絡まりあう吐息に互いを求める水音が交る。
 深く甘えるようなキス。
 彼女からの深いキスに、直ぐに胸の鼓動が早くなる。何度交わしたって足りない気がした。こうして口づけを交わすだけで、とろけてしまいそうだった。
 好き、という気持ちだけで何もかもが満たされていく。それは彼女も同じなようで、薄く開いた目に、同じように薄く開いた彼女の目が映り、切なげに閉じられる。その瞬間にどちらからともなく更にキスが深くなる。
 旅の間、ずっと告げられなかった想い。それはきっと彼女も同じだったのだ。その想いが後から後からあふれ出して来る。
 青の都で、月夜ふたりきりで踊った晩に聞いた彼女の静かな歌声、オーベルジーヌでつきっきりで彼女に付き添った日々、不意に見つめた瞬間に見せるはにかむ彼女の笑顔。
 それら全てがゆっくりと、熱く、溶かされていく。
 想いを告げられなかった期間を埋めるように、身体を預け合っていく。
「は…あぁ、ベル……んんっ」
「アンジェリナ……」
 彼女の左手が胸に添い、そして指先が先端をなぞる。その瞬間、熱を帯び始めていた身体にささやかな痺れが走る。それを悟った彼女の指先が何度も往復し、じわじわと痺れを大きくさせていく。
「やぁ……そんなっ」
 そして首筋や鎖骨の辺りにキスを降らせていたベルが、もう一方の胸の先を大きく口に含んだ。その口内で、舌が敏感になった先端を弾く。するとそれだけでこらえきれずに声が出てしまう。
「あああっ! ……ダメっ、ベルっ! ぁあ……ああん」
 追い討ちをかけるように、愛撫が強くなる。先端を吸い上げる唇に、その一方では手のひらで胸を揉み上げながら、ボディソープでぬめった親指がぷっくりと膨らんだつぼみを責める。ぬめって逃げる先端を追い、触れた指先のぬめる感覚に、身体の痺れが深くなる。
「ああああああん……あっ……ん、んんっ……」
 間断なく続けられる刺激にどうにかなってしまいそうだった。
「ああ、ベル……んん、ベルっ!」
「アンジェリナ……んんっ……」
 離れた唇がすぐに先端を追う。ちゅうちゅうと吸われ、切なさがこみ上げる。
「ベル……キスして。…お、お願い、…べ、ベル……!」
 胸だけじゃ嫌だった。もっと彼女を近くに感じたかった。近づく彼女の顔にそれだけで胸が締め付けられる。
「アンジェリナ……」
 彼女の切なげな……優しい、甘い声。
 唇が触れ、その瞬間に求め合う。――深く、強く。
 巻き取るように舌を絡めて強く吸う彼女。その度にシャワーとは違う水音が上がる。互いに息苦しくなる程深く求め合い、与え合う。
「はう、ん、……んん、ん。あん……ん、んん」
「ん、……んん。あ…ん、んんんっ」
 キスの合間にこぼれる熱い吐息すら愛おしくてたまらない。次第に身体の奥の熱が高まってゆく。
 すると不意に彼女が唇を離してしまった。鼻先が触れ合う程に近い距離のまま見つめ合いながら、潤んだ瞳で彼女が言った。
「もっと……ワタシを感じて下さいね……」
「え……?」
 もう十分過ぎるほど彼女を感じていた。彼女の唇も、指先も、肌のぬくもりも、熱も。それなのに彼女は――。
 ゆっくりと彼女がしゃがんでいく。そして、彼女は湯の溜まりかけたバスタブの中に腰を下ろしたかと思うと、その小さな唇を――あたしの脚の間に寄せてきたのだ。
 ピンク色の小さな舌先が、迷わずあたしの大事な部分に触れる。
「ベ、ベル――ぃやあん!」
 あたしは触れた瞬間に悲鳴を上げてしまう。指とは違う感触とぬめる感覚に、壊れてしまうんじゃないかと思うほど一気に鼓動が高まる。彼女の唇とあたしの脚の間から、ぴちゃぴちゃと水音が上がり、それの意味する事実にこれでもかと言うほど頬が染まる。
「だ、ダメよ……んっ、ベルっ……!」
「ん……はむ……ん。……ここ、……さっきみたいに……濡れてますね」
 その指摘に羞恥心でいっぱいになる。
「や…だ……、そんなぁ……」
「……でも、……嬉しい、です」
 そう言って彼女が口をつける。割れ目に沿うようにして、舌を目一杯伸ばしあたしの中から湧き出たものを丁寧に舐め取る彼女。見慣れた金髪が動いては、時折小さく息をついて繰り返し舐める。指よりもなお卑猥な、ぬちゃぬちゃとぬめる感覚に自然と腰が動く。
「ん……んん……、はむ、ん、……ん、ん……」
「や……あ、ああ……ん、んぁぁああ、ん」
 こらえようとしてもどうしても声が出てしまう。こんな事されて、彼女にこんな事させて、駄目だって思うのに、どうしてもこらえる事が出来なかった。恥ずかしい場所を彼女に見られ、舐められ、責められ、理性が溶かされていく。
「ああ、ベル……! ぃい……ん」
 彼女の舌の動きに、身体がおかしくなってしまいそうだった。痺れて身体が支えられなくなってくる。ずるずると壁を背にずり落ち、バスタブの縁に腰を下ろす事でどうにか身体を支える。その間もベルは舌の動きを止めない。丁寧に往復を繰り返し、そして――。
 あたしの脚を開かせていた手がすっと離れると、脚の付け根に当てられる。その指が襞を広げたのだと知ったのは、彼女の舌先が小さな突起に触れた時だった。
「ああああぁあああぁぁぁぁあああ!」
 ひときわ大きな悲鳴だった。
 がくがくと腰が震える。
 指とは違う繊細な刺激に熱がこみ上げて行く。
「や、あ、…ぃいい……いいっ! ベル! ベルっ……んああぁあっ!」
 内側から溢れ出したものと彼女の唾液とが混じり合い、突起を彼女の舌と唇が責める。今まで味わった事もない快感に全身が打ち震えた。
「いいっ! あああああっ、ベルっ! あ、あたしっ……、あたしっ!」
 もう何も分からなかった。ただ彼女の息遣いと隠微な水音だけがあたしの耳に届くすべてであり、彼女によって与えられる刺激だけが感覚のすべてになる。もう彼女だけが、あたしのすべてだった。
「ああっ、……ぃい! ベル、いいのっ! ああああっ、ああああ……」
 そして、彼女の唇が突起を吸い上げた瞬間――
「ああああああああぁぁぁぁぁ!」
 大きな快感が突き抜け、あたしは――登り詰めてしまったのだった。
「アンジェリナ……」
 ささやく声がとても耳に心地よい。
 疲れてバスタブに沈み込む。名を呼ばれて視線を上げると、どちらからともなく口づけを交わし合う。
「うん……んん……」
「ん……ん、ベル……」
 まだ心臓のドキドキが収まらない。そっと唇と離すと、吐息を感じる距離に彼女がいて、もう一度キスを交わした。首の角度を変える小さな動きに、バスタブに半分ほど張られた湯がさらさらと音を立てた。あたしはそのまま彼女を抱き寄せ、その細い腰に腕を回す。自然と甘えるように彼女がしなだれかかって来て、肩口に頭を乗せた。その重みが嬉しくて、そっと頬を寄せる。
 冷え切っていたはずの身体はすっかり火照っていた。それは彼女も同じなようで、腰に回した指先をそっと動かすと、彼女が小さな声を上げ、身動ぎした。
「ん……」
 その手をそっと胸に添える。小さな胸はすっぽりと手のひらに収まってしまうが、それはマシュマロのようにやわらかくて幸せな感動を覚える。だが彼女がうつむいて言った。
「……恥ずかしい、です」
「え? ……何が?」
 その耳が赤い。やがて彼女がおずおずと言う。
「ワタシの……胸、……小さく、て……」
 小さくつぶやかれた言葉は、語尾がシャワーの音にかき消えてしまうほど小さくて。そんな彼女が可愛くて、本当に食べてしまいたくなる。
「あなたの胸、とっても素敵よ。とても……気持ちよくて」
 それは本当の気持ちだった。ピンク色に染まった小さな丘を撫でると、彼女が震える。あたしの肩口に乗せられていた彼女の手に、きゅっと力が込められ、その反応にもしかして、と思い、もう一度胸に触れる。今度はその中心の蕾に――。
 すでにぴんと立ち上がっているそれが、饒舌に彼女の身体の状態を伝えていた。手のひらの全体を使って、しこったそれを撫でまわすだけで彼女が小刻みに震え、せつなげな吐息をもらし始める。
「ん、だめです、アンジェリナ……っ。ああっ……」
 肩に触れる指先が肌に食い込む。震える彼女が愛おしくてたまらない。声をもらす度、首筋に触れる吐息が熱い。
「ベル……」
「あ、アンジェリナぁ……」
 優しく囁くと、かすかに腿をすり合わせながらこちらを見上げ、その目が潤んで切なげに見つめて来る。いじめたいわけじゃない。でも、こんな風にせつなくなった彼女がとても可愛くて、じらしてしまう。そして彼女が次にこぼした言葉に、それだけで胸が躍った。
 きゅっと身体をちぢ込ませる彼女。
「ワタシ……もう……!」
 それが彼女なりの精一杯のおねだりだった。
 あたしは彼女の背をこちらに向けさせ抱きかかえると、シャワーの滴と汗とで濡れそぼったうなじにキスをした。色づいた肌を吸い上げると、その不意打ちに彼女が悲鳴を上げ、羽根が震えた。
「あああっ!」
 ぴんと背が反り返る。逃がすまいと腰を引き寄せ、口を大きく開き、うなじに舌を添わせると、敏感になった彼女が震え始める。
 それから胸に手を添える。膨らんだ突起を人差し指と親指で優しくつまみ上げると、切ない声がすぐに甲高くなった。
 濡れた金髪のうなじを辿りながら、小ぶりな耳に唇を寄せる。軽くはんで、そのまま舌をねじ込むと、彼女の全身が震えた。
「ひゃっ……っああああああぁん!」
 切ない悲鳴にあたしまでが芯が痺れてくる。高ぶった身体にこの刺激はきついと見えて、必死で彼女が逃れようとする。けれどしっかりと抱き抱えているので、逃げられるわけもなく、もがく彼女の耳にさらに舌をねじ込み、なめ上げ、吸い、はむ。
「やあっ、あん、あんっ、……ぁあんっ!」
 もがく度、ぱしゃぱしゃと水音が上がる。
「ダメぇっ! ……アンジェリナっ!」
「ん…好きよ、ベル……んっ」
「はあんっ……あ……やぁ…ん」
 さらに声がせつなくなり始めたので、そっと唇を離し、代わりに頬へ口づける。そうしながら、右手を伸ばす。
 指先でふくらみを感じ、そっと撫でると、ベルが小さくあっと声を上げた。そのまま、はわせるようにして奥へと手を伸ばす。それだけでふるふるとベルの身体が震え始める。
 中指を谷間にあてがうようにして、指を進める。その入口に指先が触れた瞬間――。
 すぐに分かった。
 さらさらとした湯とは違うとろりとした感触。指を入れるまでもない。
「ベル、あなた……」
「アンジェ、リナぁ……」
 吐息交じりの声は、高ぶりを抑えきれなくて震えていた。こちらが導くまでもなく、ためらいがちに脚が開く。彼女の小ぶりな胸に触れている手に、彼女の手が重ねられる。控え目で引っ込み思案な彼女のがこんな風に求めてくるなんて、相当にじれているに違いない。
 彼女の乱れ始めた呼吸を耳に感じながら、あたしはそっと指を押し込めた。中指が、彼女の中に埋まっていく。
 中ほどでゆっくりとかき回すと、その刺激に彼女が声を上げた。
「ひぁっ……ぁああ……はっ……んああっ……!」
 彼女の中は驚くほど熱かった。少しかき回すだけで、短く喘ぎながら、彼女の身体に力が入っていく。かき回す度に小さな彼女の身体が反応を示す。触れあった肌に感じる彼女の震えに、こちらまで熱いものがこみ上げ、彼女を抱えるために大きく開いた脚の付け根が、じわじわと痺れはじめるのが分かった。
「ベル……んん……」
 言いながら、白い首筋に口づけ、更に指をぐっと押し込む。初めて指の付け根まで押し込むと、彼女が切なく叫ぶ。
「ゃっ……ぁぁあああああああああん。あん、ああん……ああっ!」
 腰が浮き、彼女の細い肩が押し付けられる。そんな反応に、あたしの大事な場所が切なさを覚える。彼女を責める快感に、激しく指を動かした。中で激しく暴れる指に、ひくひくと彼女が震える。
「やっ、やっ、やっ、やっ、………んぁあああああっ!」
「ベル…っ! ベル…っ!」
「ああん、……んく、……あん…ああ……!」
 彼女の小さな身体を責めるあたしの指。震える彼女の身体。何もかもが溶け合ってしまうような気がした。
「ひゃうっ! ……ああ、……ああああん! あふっ……! ああぁあっ……!」
「ん……! あんんっ!」
 指が奥まで入っているのが分かる。そして彼女が切なくそれを求めていてくれるのも。指先と手のひらを使って、奥も、入口も刺激する。その度に悲鳴のように上がる彼女の可愛らしい嬌声に溶けてしまいそうになる。水面を揺らす音が激しくなり、彼女の締め付けが強くなる。
 そして親指で小さな突起に触れようと、少しだけ指を浅く抜く。指と共に彼女の中からとろりとしたものが流れ出て、それごと指を押し付けようとした時、――その時、不意にベルがこちらを振り向いた。
「ん……あ、…べ……ベル?」
 肩で息をしながら問うと、それ以上に喘いで肩で短い息をしながら、せつなさをこらえて彼女が言った。
「お……お願、い……あ、アンジェ、リ、ナ……んっ……も、い……一緒に……」
 そして重なり合った手をぎゅっと握る彼女。
 その手から、苦しいほど彼女の想いが伝わる。――溶け合いたい。――一緒に。感じ合って、溶け合いたい。
 彼女が懸命に微笑んでくれる。
 だからあたしも頷いた。
「ええ……。……一緒に……」

 あたしはもう一度壁によりかかりながら、バスタブの縁に腰を下ろし、その縁に脚をかける。そこに小柄な彼女の右足を跨らせ、互いの濡れた場所がぴったりと合わさるようにする。
「あうんっ!」
 触れ合った瞬間に、それだけで彼女が甘い声を出す。けれどあたしだってそうだった。彼女をそこに感じるだけで、せつなく疼いてしまう。
「もっと……ん、……体重かけてもいいわよ」
「……だ、ダメ……で、す……」
 気を使ってこちらに体重をかけまいとするベルの腰を抱いて、それを自分に押し付ける。
「はうんっ!」
「あんっ!」
 強くこすれ合い、襞の奥の突起が疼く。するとどちらからともなくすぐに腰が動き始める。けれどこちらは腰かけているので上手く動かせず、それを察したベルが大きく動かしてくれた。
「……き、気持ち、いい……です、か……?」
「ええ、……んっ! ……と、とっても……」
 腰を動かしながら彼女が恥ずかしそうに微笑む。その唇に口づけて、唇と、下と同時に感じ合う。
「んんっ……あん、んっ……はむっ……んん!」
「ん……あうんっ! ……んっ! ……あんっ!」
 腰を揺らす度に、浸かっていた湯が彼女から滴り落ちてくる。その滴さえ隠微に感じられ、気持ちが高ぶって行く。
 触れ合う場所がいやらしい音を立てる。
「ベ、ベルっ! ああんっ……あっ! あっ! ベルぅっ……!」
「ああんっ! はあっ! ……んんん、ああっ! あ、アンジェリナぁっ……!」
 唇を離し、ベルがぎゅっと抱きついて来る。
「わ、ワタシっ……も、もうっ……! ふあああっ……!」
 その細い身体を抱きしめ返し、あたしも懸命に腰を動かす。
「……ダメよ、まだ。……ベルっ! ベルっ……!」
「ああんっ……んっ! んっ! ひああぁああんっ!」
 こらえようとして彼女が甲高い声をあげる。
「いやぁっ! ああぁぁぁあんっ! あっ! あっ! ああああっ!」
 触れあい擦れ合う秘所が熱い。
「あっ! あっ! も、もうっ……!」
 ベルの腕の力が強くなる。
「あっ……あたしもっ! あたしももうっ! き、きちゃうっ……!」
「アンジェリナぁっ……!」
「ベルっ……!」
 互いを抱きしめ合う腕に力が込められる。そして触れ合う大事なところが強くこすれ合い――。

「あっ……ああああぁぁぁああああああっ!」
「んっ、んぁぁああああああああああっ!」

 あたしたちは、一緒に――――。


 すでに体力の限界に近づいていたベルと自分の身体をシャワーで簡単に洗い流し、彼女の身体を拭いてあげる。それから彼女の白いワンピースタイプのパジャマを着させてあげ、化粧台の前に座らせる。
 そうしてから自分もパジャマを着て、ドライヤーとブラシを手にして彼女のところに戻った。
「乾かさないで寝ると、風邪ひいちゃうから」
 そう声をかけたが、彼女はもう本当に限界が近いらしく。眠そうな目でちいさくこくりと頷くだけだった。人形であり、しかも通常のそれとは違う彼女は一日のうち、使える体力に限りがある。小さな子供のようにゆらゆらと船を漕ぎ始めている姿が愛らしい。
 さっそく髪にドライヤーをかけ始めるが、ふと、彼女の生みの親であるヘルマーさんの言葉を思い出した。あたしはどうやらもう一人の彼女の生みの親である女性に似ているのだそうだ。
 その話を聞いた時は、彼女はあたしをその人に重ね合わせているのかと思って、少し複雑な気分がした。でも今は不思議と嫌な気はしない。こんな風に、彼女があたしを信頼してくれるのなら、そんな関係も悪くないと思ったのだ。
 どんな関係であろうと、それがあたしと彼女を繋ぐ絆になるなら、それで構わない。
 あたしはこれから歳を取るけれど、人形である彼女の姿は決して変わる事がない。その自然の摂理が二人に何をもたらすのか、今はまだ分からない。歳を取ってあたしの外見が変わっていく事で、何かが変わるのかも知れない。それでも、それがどんな形であっても、その関係を大切にしたかった。今なら自然とそう思えた。
 すでに半世紀もの年月を生きている彼女。その間には彼女の側を通り過ぎていった多くの人々がいた。村の小さな子供はやがて大きくなり、年月の流れとともに彼女の元を去っていき、彼女ひとりが時間の流れから取り残される。だからこそ、自分を受け入れるという事に彼女が強くこだわった、その理由が、今なら分かる。
 恐いのだ。
 誰かと心を通わせながら、いつかその糸が途切れてしまうのが……。
 それは強い絆のように思えても、年月が絆をもろくさせる事を、あたしよりもずっと長く生きている彼女は知っているから。
「でもね、ベル」
 すっかり眠りに落ちている彼女の金髪の髪に口づける。
 そして優しく抱きしめ、彼女に誓う。

「ベル……。あたしはあなたの側を決して通り過ぎたりしないわ」

 ――絶対に。
 もう一度、今度は頬に口づけると、彼女の小さな寝息が聞こえた。
 触れ合えるほど吐息を近くに感じていながら、それでも年月がふたりを引き裂くのなら。あたしはあらがってみせる。あたしのすべてをかけて。
 彼女の淡い金色の髪があたしの吐息でかすかに揺れる。

 そんなあたしたちを、いつの間に雨が上がったのか、ホテルの窓の外から少し膨らみ始めた月が、

 ――見下ろしていた。


fin.


どの作品に拍手を頂けたのかこちらでは分からないため、判別のために「もっと送る」で一言頂けると嬉しいです。(「あ」とかの一言で大丈夫です)





あとがき

★不朽の名作18禁百合PCゲーム「タカハネ」よりアンジェリナ×ベルでした。
★っても、なんかアンベルよりもベルアンの割合が多いっすけど(笑)まあそれは致し方ない! 原作のベルが確信犯的誘い受けだから! あいつ、純情な振りしてめっさ誘ってるから!

 「休みませんか?」

  とか

 「来て、アンジェリナ」

  とか

  「もっと!」

  とかね(爆)

★という訳で、仕方ないよね!

★いや、そんなベルたんがものっそい好きなんだが…。アンジェリナも大好きなんだが…。もう、どっちも好き過ぎて、オレ死ぬ。

★そんな腐った思いのいっぱいつまったカタハネSSです。

★それから、姫様とエファと、アンジェリナとベル、微妙にリンクというかオーバーラップというか、そういう演出をしていますが、二組を重ねて見ているわけでなく、飽くまでも別物だと想っています。
★ただ、面影というかね、雰囲気というかね、そういうのがちっちゃくかすかに受け継がれているかなあ、と。う~ん、うまく言葉で表現できませんが。

★それからゲームをプレイした方はお分かりかと思いますが、このページのデザイン、ちょびっとだけゲームの雰囲気を真似てみました(笑)ちょっとだけですけどね。
★もちろんSEは「♪ちんちろりーん」ですw

※画像の空の部分をきまぐれアフターさんからお借りいたしました。


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Saku Takano ::: Since September 2003