卒業。 〜Page 5〜 |
◆5◆ 夕暮れの中、無言のまま二人で薔薇の館に戻ると、私は何も言わず自分で館の入り口の鍵を内側から締めた。その行為の意味する所を分からない筈ないであろう聖もまた、黙ったままだった。鍵は先程館を出た時に職員室に返すつもりで私が持っていた。その鍵をコートのポケットに仕舞う。 階段を上りきり、ビスケットにも似たドアを聖が開けて先に私を通すと、そのドアは聖が締めた。こちらのドアには鍵はない。 背中でパタンとドアが閉じられる音を聞いた。 鞄を窓際の椅子の上に置き、コートを脱いで二つ折りにして椅子の背に掛ける。ピ、というエアコンの受信音が小さく聞こえた。聖がエアコンの電源を入れたようだった。そのまま足音が近付いて来る。 私は今になって震え出した手で、制服のファスナーに手を掛けた。躊躇う前にそれを下ろす。きっと一度でも躊躇ってしまったら、このまま勇気なんて出せそうになかったから。 すとん、とワンピースの制服を直立したまま床に落とした。キャミソールとブラとショーツだけの姿になる。覆うべきものが下着以外になくなって、思わず息を飲んだ。 一歩下がって足を抜き、制服を取り上げた時に、聖がコートを脱いでそれをテーブルの上に広げた。咄嗟に制服を胸に抱えた瞬間、彼女がくるりと振り向き、教会を出て初めて互いの視線にかち合った。 無言のまま、しばし見詰め合った。 未練がましく彼女の視界から少しでも身体を隠そうと胸の前で抱えていた制服を、彼女がそっとはぎ取った。彼女が息をつくのが分かって、顔から火が出る思いがした。 その制服を空いた椅子の背に無造作に掛けると、聖が私の手を取った。そのまま一歩近付いて、私の腰に手を回す。その手が余りにも冷たくて肩を竦めた瞬間、抱き寄せられて唇を塞がれた。今度は触れるだけのキスからではなく、いきなり深く舌を押し込まれ、強く抱き締められた。私は少し背の高い聖に合わせて背伸びしなくてはならなかった。 これで、生まれて三度目のキスだというのに、まさかこんな事になるなんて。 頭のどこかで思う。 自分で望んだ事ではあるけれど、やはり先程と同じように恐怖が拭えなかった。うまく彼女の求めに応じられているのだろうか? 動かす舌先が彼女に搦め捕られて苦しくなる。 「……蓉子」 唇を離すと、一瞬唾液が糸を引いた。 「…………なに?」 「怖いなら、やめてもいいよ」 ……そんなふうに言って強がるくせに、泣きそうな目をしている。 「いいの」 私は聖に腕を伸ばし、両方の頬に手を添えた。 「私は逃げないわ」 そう言って四度目は自分から求める。――もう誰もあなたの前から去ったりはしない。 冷たくなった唇に、何度も唇を押し付ける。まるで、この先へ進むのを拒むかのように、長いキスを交した。多分、それは私の本心だった。この先へ進むのが怖かった。 先程まで、ほんの一時間程前までただの友達だった。何も告げず、卒業して、そしてそのままこの気持ちに蓋をして新たな生活を始め、やがて彼女の事をこんなにも切ない気持ちで想わなくても平気になるまで、ずっと友達のままでいようと思っていたのに。 「……聖……」 長いキスに声が掠れた。 それでも彼女の名を呼ばずにはいられなかった。気持ちが鬩ぎ合う。恐れと、喜びと。 「蓉子……」 唇が離れるか離れないかの所で、くぐもった声で名を呼ばれる。それだけで、身体の奥が痺れた。思わず身体を密着させた。スカート越しの彼女の脚が、私の脚の間に差し入れられた。今まで誰の目にも触れさせた事のない部分に聖の太股が押し付けられる。 羞恥に顔を背けると晒された首筋に彼女が唇を這わせた。味わうように何度もそこを往復する。感じた事のないぬるりとした感触に、身体が震えて、聖の制服の背中をきつく握りしめた。 「……ン」 唇から漏れた声に恥ずかしさの余り逃げようとすると、腕を引かれバランスを崩した所を机の上に上半身を乗せた状態で俯せにされた。その上に覆いかぶさられ、先程聖が敷いた彼女のコートに素肌が押し付けられる。 ウエストの辺りを冷たい指が這い上がる感覚に、息を飲んだ。ブラのホックを外され、背骨の線を下からゆっくりと舐め上げられ、耐えられずに身を捩る。その所為で私の脚の間にあった聖の脚によって、再び秘部が圧迫された。 敏感な場所を圧迫され、羞恥とじわりとした快感とに、深い息が漏れた。 キャミソールをたくし上げられ、肩口に唇が押し付けられる。首筋まで辿った時にきつく吸い上げられ、彼女が漏らす吐息さえも媚薬となり、濡れた肌を刺激する。 後ろから耳を舐られ、敏感な場所を脚が擦り上げ、極度の緊張によりそれだけで息が上がって行く。執拗に繰り返される反復運動。 「ん……、あっ、あっ、ンっうン」 「蓉子」 「あっ、あっ、ン」 重なる羞恥に、少しでも聖から離れようと机に身を乗り出した瞬間、見計らったようにそのまま仰向けにされた。 胸を覆っていた筈のブラが外れ、大きく空いたキャミソールの裾から素肌の胸が露になる。慌てて捲れ上がったキャミソールを下ろそうとすると、腕を掴まれ鼻先でキャミソールを押し上げられた。そのまま、頭頂部に口付けられる。 「だめっ……!」 けれど抵抗空しく、両腕を身体の両脇で固定されたまま舐め回され、乳房にもたらされる刺激に、我慢出来ずに声を上げた。 「いあ……ん、あっ、……ン」 「いい声だよね、蓉子って。もっと、聞かせてよ、声」 「……い――あン!」 嫌と出かけた声が、善がり声に変わる。聖の歯が胸の突起に触れ、舌と歯で優しく舐(ねぶ)られた。逃れる事も出来ず弄ばれ、身を捩りながら堪えようとするものの、ついに堪え切れずに自分でも驚く程大きな声が漏れた。 「……ん、ああっ!」 そのまま何度も荒い息をつく。 初めての行為による緊張で既にぐったりとしているのを見計らい、その隙に上体を起こすと聖は自らも制服を脱ぎ去った。私の制服同様、適当に放り投げる。シンプルなキャミソールと上下揃いの深い緑の下着に包まれている身体は、起伏のない私とは違って豊満な姿態である事をほのめかしていた。以前着やせする、と言っていた彼女の言を思い出す。 現状も忘れ余りのスタイルの違いに目を逸らすと、無抵抗であることに気を良くした彼女が、くすりと笑った。そして次の瞬間には、私のキャミソールとブラに手を掛けそれをはぎ取ってしまった。決定的に露になる胸を隠す私の腕を今度は無理にどかせようとはせずに、その下に手を滑り込ませた。 「もっとよく見せてよ」 今まで一度だって見せた事のないような艶めかしい表情で囁かれる。彫りの深いはっきりとした顔立ちなだけに、恐いくらいの説得力があった。声だけで、ぞくりとした快感が背筋を駆け抜ける。 「……さっき、見たじゃない」 けれど決して腕をどかそうとしない私に痺れを切らせて、滑り込ませた手を動かし始めた。 口が空いた分、今度は顎を舐め上げられた。それだけなのに、ぬるりとした舌の感触に快感が走る。そのまま口付けをされ、舌を捩じ込まれた。胸への愛撫に小刻みに身体が震える。じわりと、身体の中心が疼いた。愛撫に疼きがどんどん大きくなっていく。 ようやく唇を離した聖を、焦点の定まらぬ目で見上げる。 私だけ、息が荒い。 身体のあちこちが聖の唾液にまみれていた。 緩慢な仕種で腕の拘束を解き、聖の首に絡ませる。 聖はくすりと笑うと、私の目を見詰めたままゆっくりと腕を動かした。不安げな目で見上げると、身体の下の方へ向かっている事が分かって、微かに開いていた脚の間に差し込まれた。あっと思って脚を閉じた時には、彼女の右手がぴったりと脚の付け根に寄り添っていた。 「だめ……!」 「逃げないって言ったじゃない」 意地悪く笑って、これ見よがしに動かされる指。 彼女の目から逃れようと顔を背けるが、もたらされる快感に身体が逃げる事を許してくれなかった。 彼女の指が下着越しに何度か往復するだけで、身体が震えた。信じられない程甘ったるい声が自分の口から漏れるのを止められず、快感に身を委ねるしかなくなる。 「……んン、ああ……ン、あ……っ、……んン」 やがて中心が痺れて脚に力が入らなくなって来た頃、彼女の手がショーツを掴んでそれをずり下ろした。恥ずかしさに顔を逸らしたままでいると、重力に引かれて落ちたが、靴下と上履きとに引っ掛かった。聖は上履きを脱がせて、ショーツを丁寧に脱がせてくれる。私は両腕で、胸と秘所を隠した。 ――が、再び私に覆いかぶさると、あろう事か聖は私の目の前でショーツの湿った箇所をぺろりと舐めたのだった。 「な……!?」 「蓉子の味がする」 そう言うと、ショーツをテーブルの上に置き去りにし、私の首筋に口付けた。 私が抵抗してみせると、まるで何事もなかったかのように甘く、懇願するような声で囁かれた。 「あいしてる」 時折見せる遠くを見るような眼差しに胸が締め付けられた。遠くを見ているようで、責めるような、縋るような瞳。まるで魔法の言葉のように抵抗する気持ちが霧散していく。胸の奥が疼き、彼女の頭を抱き締めた。 聖。 言葉にならずに、唇だけで名を呼ぶ。 その瞬間、くちゅりと彼女の指と私の秘部とが、音を立てた。初めての感覚に、聖を抱く腕に力が入る。 声にならない声を上げ、身を捩った。 指先が細やかな動きをして、一番敏感な部分を刺激した。何度も擦られる感覚に、最早それ以外感覚がなくなっていく。 「あ……、あっ、ンっ、ふうん、ンっ」 「蓉子……!」 「んンっ、ンっ、……っ」 呼吸が速くなり、更に指が押し込まれた。 「くう……ン」 ぐちゅりぐちゅりと卑猥な音が薔薇の館にこだます。 聖と私の呼吸とがそれに交じり合う。 私が経験ではなく本能により高みに誘われて身体をしならせると、聖の腕の動きが一層激しくなった。 「――聖」 私は彼女の名前を口にしながら――――、 そして、果てた。 |
Saku Takano ::: Since September 2003 |